第一話/自身の経歴とスーパーコンピューターについて

井上愛一郎先生インタビュー

井上愛一郎先生/経歴をダイジェストでおきかせ下さい

大学卒業後は現場を目指して

最初はコンピューターとまったく関係なかったですね。大学卒業時、とにかく“現場”に行こうと富士フィルムの製造工場の現場にいました。

そのうち、自分自身で一から新しいものを作りたいという気持ちが芽生えてきて、ご縁が重なりまして、富士通に勤めることになりました。開発経験もない中、メインフレームと言われる大型コンピューターの開発に関わることができたのです。富士通は懐が深い会社だったんですね(笑)

富士通での貴重な経験とスーパーコンピューターとの出会い

当時の私はまったくの素人(笑)。勉強をしながら、職場の周りの人がいないうちに設計図に触れながら、学んでいきました。そこはとても忙しい職場でした。M780というマシーンが米国向けOEMとしてリリースされるプロジェクトがあり、その中でCPUの設計に関わりました。そして、それ以来ライフワークとして、富士通のコンピューターのCPUの設計・開発を担ってきました。

今では「京」と呼ばれるスーパーコンピューターを国プロ(国家プロジェクト)として開発する話が持ち上がり、CPUをやってきた私としては頂点を目指したい!という気持ちがあり、プロジェクトの責任者として富士通で京の開発をすることになりました。その後にユーザの立場で京を見るべく理化学研究所に席を移し、統括役という職に付きました。

スーパーコンピューターへの興味とその発展

エンジニアとしての素直な気持ち

当たり前ですが、スーパーコンピューターというのは極めて能力の高いコンピューター。CPUの開発に携わってきて、“やれるチャンスがあったらやりたい!”というのはエンジニアとしての気持ちです。

さらにスーパーコンピューターは「人の役に立つ」という思いがありました。世の中はいろいろな問題が起きてきます。地球規模の気候変動もそう。いろいろな災害もあります。そんな中、人々の役に立つ答えを出しうる、スーパーコンピューターはそんな道具になる。それが真剣に取り組もうと思った動機です。

世界で、日本で、スーパーコンピューターはなぜ発展したのか

世界のスーパーコンピューターは軍事目的にも使われており、それが発展の一助になったのは残念ながら事実です。

しかし日本において、スーパーコンピューターは産業競争力の源泉。日本の得意分野でもある車の開発一つとっても、大いに活用されています。特に空力性能の計算や、安全性や機能部品の設計などに、スーパーコンピューターが関わっています。まさにスーパーコンピューターは国の競争力に直結すると言っても過言ではないため、威信をかけて開発しているのです。

“2では駄目な理由

2番を狙うなんて、そもそもありえません。それはスポーツも同じ。スーパーコンピューターは“使われてこそ”なので、良いソフトウェアが作られて使われることが重要。その開発者も1番のスーパーコンピューター向けと、2番でいいや、と開発されたスーパーコンピューターのソフトウェアを作るのではモチベーションに関わってくると思います。

1番を目指すからこそ、良い人達が集まってきて、より良い使われ方が実現するのです。絶対一番であるべきなんですよ。

 

本コンテンツの文章化に際し、インタビュー内容を編集しております。

 

井上 愛一郎(いのうえ あいいちろう)

生年月日 昭和32年 4月23日(60歳)

現職

 

学校法人清風学園 常勤顧問

(国立研究開発法人理化学研究所 計算科学研究機構 元統括役)

専門 コンピュータのハードウェア
略歴
昭和55年 東京大学工学部舶用機械工学科 卒業昭和55年 富士フィルム株式会社 入社昭和58年 富士通株式会社 入社

平成18年 富士通株式会社 サーバシステム事業本部 技師長

平成20年 富士通株式会社 次世代テクニカルコンピューティング開発本部長

平成21年 富士通株式会社 常務理事

兼 次世代テクニカルコンピューティング開発本部長

平成23年 富士通株式会社 常務理事

平成24年 富士通株式会社 フェロー

平成25年 独立行政法人理化学研究所 計算科学研究機構 統括役

平成29年 学校法人清風学園 常勤顧問

おもな業績 昭和55年富士フィルム(株)へ入社し、写真フィルム製造ラインのスタッフに従事。その後、昭和58年に富士通(株)へ入社、以来一貫して高性能コンピュータの頭脳ともいえるCPU(中央演算処理装置)の開発に従事。現在においてもCPUの中核となるような高性能化技術、高信頼機能を数多く開発した。さらに、理化学研究所と共同開発したスーパーコンピュータ「京」において、省電力と性能向上の相反する事柄を克服した世界トップクラスのCPUを実現させるとともに、システム全体の富士通側の開発責任者として、2011年6月、11月のTOP500(スーパーコンピュータの性能ランキングの一つ)にて、二期連続で計算性能世界一の達成に寄与した。
賞、
名誉
平成17年 経済産業省 第一回ものづくり日本大賞 優秀賞
(最先端半導体テクノロジー90nmを使用したサーバ用ハイエンドプロセッサの開発により表彰)平成18年 (財)新技術開発財団 市村産業賞(38回)貢献賞
(最先端半導体テクノロジーを使用したサーバ用プロセッサの開発により表彰)平成18年 (社)発明協会 関東地方発明表彰 発明奨励賞
(基幹サーバ用プロセッサの分岐予測制御技術の発明により表彰)

平成23年 日経BP社 第10回日本イノベータ大賞 特別優秀賞
(スーパーコンピュータ「京」開発チーム代表)

平成24年 文部科学省 平成24年度文部科学大臣表彰科学技術賞(開発部門)
(スーパーコンピュータ技術の開発育成により表彰)

平成25年 褒章(紫綬)を授与される(科学技術分野
(ハイエンドコンピュータを実現する高性能・高信頼CPU技術の開発)

学校法人 清風学園
https://www.seifu.ac.jp/