第4話/真のIT教育を目指して。「本質」を知ってほしいという願い。

エンジニアである井上先生が、なぜ高校の教師をやっているのか?

コンピューターの「本質」を知るのに適しているのが高校生

きっと多くの人が社会に出て、パソコンを使って仕事をするんですよ。ですから、コンピューターの使い方は、嫌というほど学びます。ですがパソコンの内部のことはわからない人が多いはずです。

特にCPUに関してはまったく分かっていないと思いました。なんとなくアプリケーションを動かせばそのとおりになりますし、プログラマーはプログラムを書けば、実行すれば意図したとおりに動きます。でも、なぜそれが意図したとおり、そのとおりに動くのか、

そこまで考えようともしないし、考えても分からないのです。コンピューターの構成要素はどうなのか、そして、その中でも要であるCPUがどのような仕組みでどのような働きをしているのか、それを知ることは決して無意味ではなく、重要な核心ではないかと思っています。“コンピューターって何なのだろうか”、コンピューターに対するピンとくる感覚を身に着けてほしい。そういう意味で、大学で専門的な勉強が始まる前の高校が適していると思いました。

パソコンを実際に組み立てる

私が常勤顧問を務める学校法人清風学園 清風高校の授業では、まずコンピューターの構成要素をどういうものから成り立っているか学んでもらうために、パソコンの部品調達から組み立てまで、生徒にやってもらっています。大きめの教室に各部品の模擬店を開いて、予算を決めた買い物ゲームの中で、部品を買ってパソコンを組み立ててもらいます。もちろん、OSインストールも行いまして、実際に動かせるというところまで行っています。

「人間コンピューター」という授業

パソコン組み立てを通して、コンピューターがどのような構成要素になっているか、一通り学びますが、その中でコンピューターをコンピューター足らしめているものがCPUになります。ではそのCPUがいったい何なのか、これを学ぶのが非常に難しい部分。

私は授業のために典型的な回路図を作り、その回路のなかの様々なファンクションブロックに実際に生徒を割り当て、ファンクションブロックの間は制御線でつなぎ、そこを生徒自身が「情報」をもって歩いて渡しに行くという。CPUの中で動いている電子・電気の代わりに生徒が身をもって情報を運ぶ役割を担ってもらいます。クラス40~50人が実際に役割をこなし、体を動かすことで身をもってCPUのことを学んでもらうのです。

井上先生が思いを込める真のIT教育

本質を学んだ上で力を発揮してほしい

コンピューターは人が作った道具にすぎません。それはどんな道具なのか、本質的なところを学んでほしいです。今、しきりにIT教育とかICT教育と言われていますが、多くの学校で行われているのがワードやエクセル、パワーポイントでの資料作りやウェブページの作り方などに終始している印象を受けます。

それゆえにコンピューターとはいったい何なのかが、学べていないのです。

コンピューターの本質を高校だからこそ教えるべきで、このような教育は今の日本ではそうないかも知れません。コンピューターを使う人達がコンピューターの本質を知ってほしい、これが私の願いなのです。

 

本コンテンツの文章化に際し、インタビュー内容を編集しております。

 

学校法人 清風学園
https://www.seifu.ac.jp/

井上 愛一郎(いのうえ あいいちろう)

生年月日 昭和32年 4月23日(60歳)

現職

 

学校法人清風学園 常勤顧問

(国立研究開発法人理化学研究所 計算科学研究機構 元統括役)

専門 コンピュータのハードウェア
略歴
昭和55年 東京大学工学部舶用機械工学科 卒業昭和55年 富士フィルム株式会社 入社昭和58年 富士通株式会社 入社

平成18年 富士通株式会社 サーバシステム事業本部 技師長

平成20年 富士通株式会社 次世代テクニカルコンピューティング開発本部長

平成21年 富士通株式会社 常務理事

兼 次世代テクニカルコンピューティング開発本部長

平成23年 富士通株式会社 常務理事

平成24年 富士通株式会社 フェロー

平成25年 独立行政法人理化学研究所 計算科学研究機構 統括役

平成29年 学校法人清風学園 常勤顧問

おもな業績 昭和55年富士フィルム(株)へ入社し、写真フィルム製造ラインのスタッフに従事。その後、昭和58年に富士通(株)へ入社、以来一貫して高性能コンピュータの頭脳ともいえるCPU(中央演算処理装置)の開発に従事。現在においてもCPUの中核となるような高性能化技術、高信頼機能を数多く開発した。さらに、理化学研究所と共同開発したスーパーコンピュータ「京」において、省電力と性能向上の相反する事柄を克服した世界トップクラスのCPUを実現させるとともに、システム全体の富士通側の開発責任者として、2011年6月、11月のTOP500(スーパーコンピュータの性能ランキングの一つ)にて、二期連続で計算性能世界一の達成に寄与した。
賞、
名誉
平成17年 経済産業省 第一回ものづくり日本大賞 優秀賞
(最先端半導体テクノロジー90nmを使用したサーバ用ハイエンドプロセッサの開発により表彰)平成18年 (財)新技術開発財団 市村産業賞(38回)貢献賞
(最先端半導体テクノロジーを使用したサーバ用プロセッサの開発により表彰)平成18年 (社)発明協会 関東地方発明表彰 発明奨励賞
(基幹サーバ用プロセッサの分岐予測制御技術の発明により表彰)

平成23年 日経BP社 第10回日本イノベータ大賞 特別優秀賞
(スーパーコンピュータ「京」開発チーム代表)

平成24年 文部科学省 平成24年度文部科学大臣表彰科学技術賞(開発部門)
(スーパーコンピュータ技術の開発育成により表彰)

平成25年 褒章(紫綬)を授与される(科学技術分野
(ハイエンドコンピュータを実現する高性能・高信頼CPU技術の開発)